[2회]

この夜、旅舍、榮屋の洋燈の下で 又しても匪賊の話がはずんだ、こ こは矢張り現地であるだけに聞く 話も非常に實感が伴つて來る (語 る人は、筒井警察部長、三輪高等課長と記者團)
『金日成とい男はいつたいど んな男だらうかね? 一説には 先年東邊道で討伐軍に殺されて 以來、實在の人間では無いなど と言はれてゐるやうだが......』
『いや立派に實在の人間なんだ 現に數年前ある新聞記者がその 本據を訪ねて會つてゐる、寫真 にも出なかつたが確かに、金日成に逢の記......といふのが新聞に載つて大きなセンセイションを捲き起したことがある』
『そいつは少し眉唾ものでは無 かつたかネ、併し、實在の人間 には違ひない、彼の出身地は咸南甲山だといはれてゐたが、本當は平北ださうだ、幼少の頃、 父は萬歳騒ぎで死刑になつたが それから彼は父の衣鉢をついで 民族主義運動に走り匪賊となつた、いはば奴は哀れなる宿命の 子なんだネ・・・・・しかしまだ三十 そこくださうだが匪賊の頭目 として師團長格なんだから相當な傑物には違ひないね』
『今度お越のお客さんは、この 金日成の乾分で、吳白龍といふ 奴ださうだ、吳白龍はいま落葉 幕附近にゐるさうだが・・・・・・どう かネ、一つ吳白龍に會ふの記でも書いたら.....確かに、近頃大したスクープだが誰か行つて見る勇氣は無いか?』
『この前、今日會つた和龍縣の 警務科長 宇波()止がこの吳白龍に〃いと加減にもう年貢を収め たらどうか・・・・・・〃と勸告文を送つたら實に不遜な返事が來たさ うだその返信には〃お前達こそい加減にもう年貢を収めたら どうか·····餘命幾許も無いお 前達は實た 哀れなものだ、お前等は俺達の兵糧、武器輸送隊でしかあり得ないからである・・・・・・ 〃と書いてあつたさうだが、實に笑はすちあないか!』
『實に不遜な奴だ・・・・・對岸にや つて來て〃ことは住心地が良いから、三四ヶ月御厄介になるからどうかよろしく頼む、何れ端午の節句には三長のうまいお菓子を頂戴に行く・・・・・・と豪語し やがったさうだネ』
『何しろ 癪^[1]だ、あの密林さへ無ければ、本當に目に物見せてやるんだが、繁茂期はまるで彼等の爲にパリゲートを張つてやるやうなもので實際手がつけられない、この密林を潜つて... 先月の二十日頃から今日まで鮮内を浸入すること、四ヶ所・・・・・・ 我が警備隊と交戰すること十一回に及んでゐるが、密林の中に逃げ込まれたんではまるで暗夜に鐵砲でさらばり戰果があがらない』
『二三日前安圖縣でバスを襲撃し乘客の内地人三人を虐殺して金品を强奪した上ガソリンに火をつけて、車體を燒いたさうだが、匪賊はまだなかく種切れになりさら無いねえ』
『匪賊にもシユンといふるのがあつて今は丁度そのシュンなんだね、いはゆる繁茂期は彼奴等につて出沒の書入れ時だ・・・・・・ だが居心地が良いからといつて 永くそこらに居据られたんちや 困る咸北警察の威信にかけても 斷じて擊退そんけりやならん』

(つじく)【カツトは江岸の望樓 (農事洞)寫真は片田署長と軍艦山を望む】